メンタルモデルとは何かの考察
年末年始に、以前開催されていた Spectrum Tokyo Festival 2023 で発表されてた資料などを追う機会があり、その中で最近自分がよく考えている「メンタルモデル」や「モデル」の重要性に触れていたものがあったので改めて自分の中で「メンタルモデル」とはなんなのか雑記や整理を書いている。
前提
ここ数年、本業では大規模領域の中で新規事業に挑戦している領域をかなりの自由度で開発リーダー (要するにテックリード職のようなものだと捉えている) として見ている。
その文脈で2つの異なるフェーズの新規プロダクトをテクニカルの面でリードしている。
また個人的には特に新規事業においては、開発のリード職の仕事は技術的な意思決定はもちろんのことプロダクトマネージャーやデザイナーのメンバーとの協働をいかに深くできるかが重要と捉えていて、いわゆるスクラムマスターっぽい仕事の比重が大きくなるように仕事をしている。
その中でチームの価値観の1つとして 「精神を揃える」 という言葉をよく使っている。
これはざっくり言ってしまえば、コンテキストを広く共有することで様々な意思決定の方向性を合わせ目まぐるしく変わる状況の中でもある程度同じような意思決定をみんができるようにしようという価値観である。
おかげさまで最近は「利用ユーザー像」や「ビジネスの状況」という文脈においてはある程度 「精神を揃える」 を実現できている感覚があるがフェーズが進むに連れて具体のモデル(※注釈参照) についての認識を合わせることが満足いく形で出来ずにいた。
その背景としてはそもそも例えば、エリック・エヴァンスの「ドメインモデル」のようなものの重要性を開発者でさえ正しく認識できていない場合があるわけなので、その他の職種のメンバーにいきなり理解してもらうというのにハードルが高いというのがまず1つ挙げられると考えている。
前置きが長くなってしまったが、要するにここ最近の個人的な中長期的な悩みとして
「職種を横断してモデルやモデル同士の関係性の認識を揃えることが非常に有益であることを理解、納得してもらい、そして継続的にかつ自発的に実践してもらうための言語化」
を探しており今回はいくつかこの言語化を前進させてくれそうな発表があったので暇な年末年始のうちにメモを残す
※注釈
若干寄り道をしてしまうが、「モデル」や「メンタルモデル」などは、言葉として非常に曖昧で (故に言語化を試みている) 背後にあるコンテキストの設定の仕方によっては非常に広義な意味を持ち得る言葉だと考えているため本編に入る前に、ある程度の言葉のイメージや自分のスタンスを明示しておきたい。
今回は、冒頭でも述べているようにあくまでも 「いわゆるインターネットビジネスを展開する上で一般的なプロダクト開発チームがアプリケーションやサービスに対しての認識や考え方、捉え方を揃えたい」 というスコープの中で言葉の意味を考えていくこととする。
TL;DR
まず結論から
プロダクトづくりにおける「メンタルモデル」には主に以下に挙げる3つの重要な価値があるため、職種を横断してモデルやモデル同士の関係性の認識を揃えることが非常に有益であり、そして継続的にかつ自発的に実践していくべきだと考える
- 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象を観察した結果の解釈の精度に支配的な影響を及ぼす
- 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象からの学びを促進する (= 自己変容を促す)
- 集団 (一般的には職種を横断したチーム) において、認識齟齬の可能性を減らしコミュニケーションの質を向上させる
詳細
1. 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象を観察した結果の解釈の精度に支配的な影響を及ぼす
上図にもあるようにある事象を観察 (e.g. ユーザーの行動ログでも定性調査でも事業状況の変化でもなんでも) した際には、構築されたメンタルモデルを通して何かしらの解釈の結果として「こういうことが起きているのではないか?こういった負をユーザーは抱えているのではないか?」などの解釈を行うと考えている。
このあたりを整理するにあたっては、あらゆる場面でデザインを駆使するための技術 で紹介されていた Models of Models が参考になった。
Models of Models の中では、 models について以下のように述べている。
Models are ideas about the world - how it might be organized and how it might work. Models describe relationships: part that make up wholes; structures that bind them; and how parts behave in relationship to one another.
(意訳)
モデルとは、世界がどのように構築されていて、どのように機能するかについての考えである。モデルは全体の構成、それらを構築する構造、そして部分同士がどのように関係し合って機能するかを説明することができる。
また、それに続き以下のようにも述べている
Models also help us predict likely futures: what actions other actors may take, consequences of those actions, and what actions best respond to threats or most efficiently help us pursue our goals.
…
Chris Argyris wrote, “Although pepople do not [always] behave congruently with their espouted theories [what they say], they do behave congurently with their theories-in-use [their nental models].”
(意訳)
モデルは、他の関係者がどのような行動を取る可能性があるか、その行動がどのような結果をもたらすか、どのような行動がリスクに最も効果的に対応できるか、どのような行動が目標達成に最も効果的かを予測するのにも役立つ。
…
クリス・アーガリスは、「人は(常に)自分の主張する理論(自分の言うこと)と一致して行動するわけではないが、自分の使用する理論(自分のメンタルモデル)とは一致して行動する」と書いている。
これらの主張を自分なりに整理した結果、モデルとは、モノ(※) 自体の構造とそれらの関係によって構成される全体の構造を説明するもの (※ここでは話を簡単にするために「モノ」として捉える)と捉えた時にメンタルモデルはモデル同士によって構築された全体という整理の仕方が可能と考えている。
したがって何かしらの結論や仮説を出す際には、純粋にデータや定量指標のみからではなく無意識的に構築されたメンタルモデルを介していると考えることができる。
2. 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象からの学びを促進する (= 自己変容を促す)
特に現代のプロダクトづくりにおいて 「CIの改善をスクラムでユーザーストーリーとして扱うか?」を考察する でも紹介した Cynefin Framework の Complex な問題を扱うことが多い。
Complex な問題を扱うということは、ユーザーに受け入れらたらそれが正解という問題を扱っているということになる。
したがって、1 の図で出した仮説が実際にどう受け入れられたのか (または受け入れられなかったのか) を検証して継続的に学習していくことが重要であることは多くの文献で語られている。
この再学習の工程の考え方として 人類学的なデザイン という発表が非常に参考になった。
この発表の中では、日常的なやり取りの中で以下のような2つの視点を説明している
- 異質馴化: 異質な他者をわかろうとする
- 馴質異化: 他者の視点から自分をみつめなおす
特に馴質異化は、ユーザーからのフィードバックによる再学習の工程そのものと言える。
また馴質異化の結果の再学習のことを自己変容と呼ぶことも紹介している。
「1日の答え」 というブログでも紹介した通り仮説を持ち続けその仮説を更新していくという考え方は、 明確な「メンタルモデル」を持ち馴質異化を通して自己変容を促し「メンタルモデル」を更新する という考えかたにも通ずるところがある。
3. 集団 (一般的にはチーム) において、認識齟齬の可能性を減らしコミュニケーションの質を向上させる
1 でも述べたように、メンタルモデルを介して観察した事象を解釈し「仮説」を出すのであれば、メンタルモデルの数だけ「仮説」の数があると言える。
ちなみにこの整理の仕方は、Models of Models でも紹介されている。
その中では、以下のようにメンタルモデルを共有しチーム内での合意を探すことがいかに大事か主張している。
By sharing our models, we may be able to confirm where we agree - and discover where we disagree.
Models provide a basis for shared understanding, agreement, and group actions.
(意訳)
モデルを共有することで、認識があっていることを確認し、同意できないところは発見することができるだろう。
モデルは、共通理解、チーム内での合意、そしてグループ行動の基礎を提供することができる。
まとめ
再掲とはなるが、
プロダクトづくりにおける「メンタルモデル」には主に以下に挙げる3つの重要な価値があるため、職種を横断してモデルやモデル同士の関係性の認識を揃えることが非常に有益であり、そして継続的にかつ自発的に実践していくべきだと考える
- 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象を観察した結果の解釈の精度に支配的な影響を及ぼす
- 個人の範囲に閉じて、ある特定の事象からの学びを促進する (= 自己変容を促す)
- 集団 (一般的には職種を横断したチーム) において、認識齟齬の可能性を減らしコミュニケーションの質を向上させる
まだこれだという形での説明にはなっていないが特に 人類学的なデザイン の考え方はもっと掘ってみたいなと感じており他の人類学の本も読んでいこうと思った。